戦争の経済学
いま通勤電車の中で「戦争の経済学」という本を読んでいます。
大学の授業などで使うテキストで、戦争の経済的側面を扱ったものです。
グラフがたくさん出てきて、経済学の知識がないと読みづらいですが、
なかなか面白い視点で戦争を分析していて、お奨めの本です。
特に面白かったのが、「内戦の経済的な要因」という項目です。
内戦の発生確率を調査した研究によれば、
5年以内に戦争が発生する確率は次のとおりです。
・1人あたりGDP 250ドルの国=15%
・1人あたりGDP 600ドルの国=7.5%(半減)
・1人あたりGDP 1,250ドルの国=4%以下(さらに半減)
・1人あたりGDP 5,000ドルの国=1%以下
貧困と戦争(特に内戦)の間の強い相関関係がわかります。
豊かな国ほど戦争することが経済的に割に合わない、
つまりは戦争をすれば失うものが大きいということでしょう。
また、同書は、兵員リクルートの機会費用(失う利益)が大きいことも、
反政府勢力が武装闘争に訴えにくい要因のひとつと指摘しています。
例えば、年収1000ドルの人は「400ドルで反乱軍の兵士にならないか?」
と誘われても、なかなか誘いには乗らないでしょう。
ところが年収200ドルの人は、同じ誘いに乗る可能性が高いのは当然です。
もちろん「大義」のために金銭的報酬など関係なく、
命がけの独立運動等に参加する人もたくさんいるでしょう。
歴史や偉人伝を読めば、自己犠牲をいとわず、金銭的利害や社会的地位を捨て、
独立運動や反政府運動に参加する英雄的な人がたくさん出てきますが、
そんなに志の高い兵員ばかりでないケースが大半と言ってよいでしょう。
実際に紛争地に行ってみればわかります。
私が9・11テロ事件の冬にアフガニスタン北部にいた頃には、
地元(アフガニスタン北部)の軍閥が新兵をリクルートしていました。
聞いた話では、月給100ドルとか150ドルとかその程度でした。
他に稼ぎの良い仕事があれば、兵隊になりたくないという人が多い感じでした。
また、軍隊というのは、貧困から抜け出すには、いい機会だったりします。
インドネシアのスラムで小さい子に「大きくなったら何になりたい?」と尋ねたら、
男の子からよく返ってくるのは「ABRI(=国軍/陸軍)」と「運転手」でした。
運転手というのは学歴がなくても就けて、子どもたち憧れの自動車に乗れます。
国軍は実力本意の組織で、実力次第で貧困層出身でもえらくなれる可能性があります。
軍政が長く続き、現役軍人が政府高官に就くことが多かったという事情があるでしょう。
そういう意味では、貧困がテロや内戦の温床になっているというのは、
経済学的にも、体験的・感覚的にも、十分に納得できます。
日本を除く先進国がここ数年でODAを大幅に拡大しているのは、
まさしく貧困削減を通じて、テロや内戦の温床をなくすためでもあります。
また、貧困が内戦を招くという因果関係があると同時に、
内戦が経済停滞と貧困を招くという逆の因果関係も認められます。
同書によれば、19世紀くらいまでは経済的に割に合う戦争もあったそうですが、
20世紀以降の戦争は経済的に割に合わなくなりました。
軍需産業や軍閥トップなどの一部の人は潤いますが、戦争は国を貧しくします。
倫理的な理由はもちろんのこと、経済的な理由でも戦争をすべきではありません。
平和の尊さを訴えるだけではなく、戦争に訴えるのがいかに非効率でムダかを、
学問的・統計的に検証し、広く国民に知ってもらうことも必要かもしれません。
参考文献:「戦争の経済学」ポール・ポースト著、2007年
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